Reapraの自我発達支援方の法の一つとして、「シャドーワーク」がある。 シャドーワークについてまとめた資料として以下の2つを用意している。
● シャドーワーク一般化資料(理論編):https://docs.google.com/document/d/1eRh6dU_-UwnT9Xbb6A57TEg4nBX1SWamT2CNclMHqS8/edit?usp=sharing
● シャドーワーク一般化資料(実践編): https://docs.google.com/document/d/1mPeyA-e8lBNNRMiIi32SMkz1Ao1e5WsmfxsGw92c1mU/edit?usp=sharing
一つ目の資料では、シャドーやシャドーワークといった概念が簡単にまとめられている。二つ目の資料は、Reapraの過去の支援経験をもとに、シャドーワークを実際に使って支援する時の注意点や意識すべきポイントについて記述している。シャドーワークは非言語的な知識・技術を多く含む上に、Reapraでも研究・実践を続けているものであるため、資料の中に抜け漏れている観点や要素があると考えられる。今後の研究・実践に基づいて、資料のアップデートを繰り返す予定があることをご理解いただきたい。また、資料の中で紹介するツールがいくつかあるが、詳細の説明はスキーマ療法のみに留まっている。今回は、実践数や資格ビジネス化(MBTI・エニアグラム)などの都合上、スキーマ療法のみの説明に留めておくが、ここも今後更新される可能性が十分にあると考えている。
エニアグラム
性格類型で有名な9つの性格の分類法である。インターネットで落ちている無料のものをいくつか受けた後、各タイプの記述を読んで腹落ちしたものがあなたのタイプだと思って欲しい。
すべてのタイプ論がそうだが、「これが自分のタイプだ」と真に腹落ちしない限り、その類型論を使っての内省は難しい。まずは自分のタイプを特定することから始めて欲しい。
エニアグラム診断の進め方はこちら(エニアグラムイントロ資料)
エニアグラムも決して人を分類して型にはめることを意図していない。著名なエニアグラム研究家のドン・リソとラス・ハドソンは「(エニアグラムは)人を分類して箱に入れるのではなく、すでに入っている箱がどのようなものかを教えてくれる役割を持っています。自分が箱の中にいるということに最初に気づくことが、そこから脱出するための前提なのです。逆説的に聞こえるかもしれませんが、エニアグラムは、制限されたタイプ=パーソナリティの枠から抜け出すための地図なのです」と述べる。鈴木は「タイプを知るということは、座標や地図から情報を得ることです、見えるところはより鮮明に見せてくれ、見えにくい影の部分にも気づかせてくれるというありがたい効用があります。自分の影を見つけることで、自分の本質を再発見するのです。パーソナリティについての理解を深めることなく、さまざまな心理的な(あるいはスピリチュアルな)ワークを行なっても、心の深層に潜む問題は解決されず、真の自己実現には至れません」と述べる。
このように、「自分」から自由になるために、<自分>を知るのである。
エニアグラムに埋め込まれている、垂直発達の次元
人生の初期の課題は、アイデンティティの確立である。しかしながら、変わりゆく状況環境の中で、あまりに変わらない不変的なアイデンティティを把持することは、特に変化が激しいことが所与とされる複雑な市場での起業・経営のためにはマイナスの作用が大きい。
エニアグラムにおいては、各タイプの中で「意識のレベル」=「健全度」という尺度が用意されている。これは自我発達段階の代替指標となり得る。ここで言う意識のレベルは、エニアグラムの健全度指標においては、レベル9がもっとも低次で、最も高次なレベル1は「自我の働きに完全に気づいている段階」とされている。
エニアグラムのメッセージは、「性格というギプスから自由へ」である。ここにおいて、性格とは幼少期に体得してしまった自己防衛スタイルだとされている。幼少期に満たされなかった種々のニーズに対する対処法が、「性格」なのである。このギプスは、傷を守り、癒やすためには必須の防御膜であったが、時が来たら外さなければ、そこの部分においては永遠に固定化されたままで、成長が止められる。以下リソの『エニアグラム新版 実践編』から引用しよう。
心理学では、…幼少期において…適切に満たされなかったニーズは「欠落部分」となり、私たちは自らの本質としての全体的存在を体験しにくくなります。…私たちの性格は発達過程において、こうした「欠落部分」を補うために形成された、と。性格はギプスのようなもので、骨折した腕や脚を守ります。もとの傷がひどければひどいほど、ギプスは大きなものでなければなりません。もちろんギプスは手足が癒え、その完全な機能を回復するために必要です。けれどもそれを外さないと、手足を使うことが非常に制限され、それ以上成長することができなくなります。誰もが子ども時代を卒業するには、ある程度痛みを隠し、心を閉ざし、さらなる傷から自分を守る必要があったのです。
一時的なギプスとして見た場合、性格はきわめて役に立つ、とても必要なものです。なぜならそれは、私たちがもっとも弱く、魂の傷が最大であるところにもっとも強力に発達したからです。したがって性格というものは、心理的に生存するために助けになってくれただけでなく、成長の取り組みでどこが一番必要かを指し示していくれるのです。
ただし性格の大部分は、条件づけられた反応や恐れ、信念の寄せ集めにすぎず、真の「セルフ」ではありません。したがって、性格との同一化は、「深い自己放棄」に終わります。私たちのアイデンティティは本質を離れ、発達させざるを得なかった防衛の殻にシフトしてしまいました。「自分の性格イコール自分だ」と信じる限り、性格に同一化し続けます。(リソ『新版エニアグラム 実践編』pp.-)
自己とは、性格そのものではない。性格は、自己の「部分」である。しかし、意識としては「自らの性格」として一体化してしまっている。であるがゆえに、性格それ自体を客体化すること。繰り返すが、発達は常に客体化から起こる。性格を客体化する ことで、性格に同一化してしまっているところから抜け出し、より全体性のある自己へと至ることができる。エニアグラムは、自分の性格を総体として客体化するツールである。
スキーマ スキーマ療法とは、個人が小さい頃の経験から形成した、認知や感情の歪みを生むスキーマ(ここでは “早期不適応的スキーマ” )を特定し、そのスキーマの認知と融和を目的として行う認知療法のことである。REAPRAにおいてはこれは、支援対象者の”シャドー”を特定するためのツールとして活用している。主にジェフリー・ヤングが定式化したもので、国際的な共通言語化しているため、グローバル展開もしやすいことが大きな利点だ。
ここで言う”スキーマ”とは、思春期あたりまでの、有害な経験によって、人間の中核的感情欲求が阻害されることで形成される、認知的防衛機能のことを指す。例えば、人間ならば誰しもが持つ「愛がほしい」という欲求が、両親から十分に愛されず満たされなかったとする。すると人はいつしか、自分の心を守るために「そもそも愛なんて必要ない/自分は愛されないんだ」という認知の歪みを持つようになる。
当時の環境において自分を守るために形成したスキーマには、自己防衛機能があり、容易に変化しない。そのため環境が変化してもスキーマ自体は存続し、次第に自他に悪影響(不適応的)を及ぼし始める。例えば、「そもそも愛なんて必要ない」という考えから、合理性を重視して働かせ、人との情緒的なコミュニケーションを避けるような行動傾向が現れる。しかし、その行動傾向が社内ではコミュニケーション不足が問題を生み、さらにそうした関係性の中で、「やはり自分は愛されないんだ」という確証バイアスが働き、スキーマは自己強化される。
スキーマは大まかに以下の5つ、「他者との安全なアタッチメント」「自律性、有能性、自己同一性の感覚」「正当な要求と感情を表現する自由」「自発性と遊びの感覚」「現実的な成約と自己制御」に分けられる、これらは人間ならば誰しもが持つ(中核的)感情面にまつわる欲求である(感情欲求)。
この5つの類型の下位分類があり、これらを総計して5類型18種類のスキーマがスキーマ療法においては想定されている。
この18種類のスキーマが、自身の中にどの程度あるのかを判明する質問紙があり、誰でも受けることができる(ジェフリーヤングが作成したものをそのまま採用している)。
これらの調査を通じて出た結果を元に、シャドーワークの相手と対話を開始していくが。スキーマの修復(schema healing)こそ,スキーマ療法の最終目標である。スキーマは、一連の記憶,感情,身体感覚。認知が組み合わされたものである。したがってスキーマが修復される過程においてそのスキーマに関わる、さまざまな要素たとえば感情や身体感覚の強度、不適応的な認知といった要素がすべて軽減されるはずである。
スキーマの修復には,行動の変化も伴う。すなわちスキーマが修復されるとそれに伴って患者の不適応的なコービングスタイルは適応的なものへと変換される。スキーマ療法は,認知的介入,感情的介入,行動的介入の全てが行われる。
あるスキーマが修復されればされるほどそのスキーマは活性化されにくくなる。またたとえ活性化されたとしても,患者は前ほどそれに圧倒されなくなり,早く立ち直れるようになる。
スキーマセッションの進め方概要
スキーマセッションには、第一フェーズと第二フェーズが存在する。第一フェーズは「アセスメントと教育のフェーズ」と呼ばれ、スキーマとは何か、自分が保持するスキーマとは何かについて理解し認識を深めるフェーズである。
第二フェーズは「変容のフェーズ」と呼ばれ、実際に自分のスキーマの変容に取り組むフェーズである。以下それぞれに分けて見ていく。
第一フェーズ
スキーマ療法における本フェーズでは、支援対象者が自身のスキーマの種類を同定し、実際の業務やプライベートでそれがいかに発動しているかを認識し、そのスキーマの起源について、認識を深めていく。そのような過程を経て、支援対象者は自らの不適応的なコーピングスタイル(服従、回避、過剰補償)を自覚し、個々のコーピングコーピング反応がいかにスキーマを維持しているのかを理解するようになる。
コーピングとは、cope with=対処するという意味で、「ストレスコーピング」という言葉で馴染みがある用語だが、ストレスコーピングで言うと「ストレスに対処する意味である。
スキーマで言うコーピングスタイルとは、そのスキーマに対してスキーマ保持者が取る行動様式のことである。スキーマはそれ自体に自己保存(スキーマそれ自体が保存される)機能があり、スキーマを修復するような対人関係を避け、スキーマを活性化・持続してくれる対人関係を無自覚的に選択する。コーピングスタイルには以下の3つがあると言われている。
服従…スキーマに「服従」する。スキーマに従い、そのスキーマを「真実」と考える。結果、認知的には気持ち良いが、感情的に苦痛を感じる。
回避…スキーマを「回避」する。スキーマを活性化しないよう警戒し、スキーマの引き金になりそうな思考や感覚を遮断する。目を背ける。
過剰補償…スキーマを「過剰に補償」しすぎてしまう。補償とは、損害・費用などを補いつぐなうことである。スキーマの認知にあらがって振る舞い、スキーマと闘う。しかし、対症療法でしかなく、根源的不安は維持される。
スキーマの結果を可視化する。
支援対象者に、スキーマ診断を受けてもらい、結果を可視化する。ここで注意しておきたいのは、スキーマの点数が高いからと言って、必ずしもそのスキーマが「活性化」しているとは限らない点である。「活性化activate」とは、そのスキーマが実際に業務やプライベートで発動しているという状態のことを指す。
点数であるが、18種類のスキーマがそれぞれ30点満点となる。一般的には20点を越えてくるものは「活性化」されていると考えて良いが、人によっては全体的に点数を低く答えるケースもある。15点を越えるものが一つも出ないケースもあるが、人間としてスキーマが全くないことは考えにくいため、当人のなかでは無自覚であることが想定される(安易な一般化は禁物だが、ステージが3に近いほど無自覚である傾向が強い-自身をメタで見る視点が弱いため)。その場合は無理にスキーマ診断でシャドーワークを提供する必要は必ずしも無く、日々の内省をガイドするセッションなどに切り替えても良い。またスキーマの点数として20点を越えるものがなくても、18種類のうち当人の中での相対比較で点数が高いスキーマを取り上げてセッションしていくことに効用があるケースもある。
スキーマ一つひとつの特徴と、当人自覚のためのセッション
シャドーワークのポイントは、「本人が自身のスキーマについて悟る」ことにある。かつて無自覚だったものを自覚化するだけで、自我の客体化は進むことになるので、自身のスキーマを認知し自覚するだけでも、「自我発達」に資すると言える(自我の客体化がすなわち自我発達―3章◯節参照)。
スキーマの結果が可視化されたら、点数が高いものを上位からその特徴を簡単に概観し、業務やプライベートでどのようにそれが立ち現れているかを内省してもらう時間を持つ。その際に、セッション提供者とのトラストビルディングのために、提供者側のスキーマ事情も、事前にシェアすることが望ましい。それによって、この時間はお互いのスキーマ(弱み)を開示しあう心理的安全性が担保された時間であるという、コミュニケーションの場に対するメタメッセージにもなる。そのため、スキーマセッションを提供するに当たっては、セッション提供者(RM)自身もスキーマセッションを受け、自分のスキーマについて詳細を理解し、変容の取り組みを事前に行なっていることが望ましい。
スキーマが業務やプライベートで現れていることの自覚がすすんだら、次はそのスキーマの起源を理解しに行くことが望ましい。その際には、一つひとつのスキーマに関する詳細を書籍から書きおろした書類があるので、その書籍を参照しながら進める。(リンク貼る)
書類においては、このような家庭環境や、こういう境遇だとこのスキーマを持ちやすいといったことが理論化されている。その書類を一緒に見ながら、セッション相手が自身で内省が進むように配慮しながら進めていく。
第二フェーズ
スキーマ療法の第二フェーズは、「変容のフェーズ」と呼ばれている。実際に個々のスキーマに対して、そのスキーマを変容させていく取り組みとなる。REAPRAの文脈において、この第二フェーズのセッションをやり切った事例は無い。第一フェーズまで終え、自身の認知したスキーマをそのまま反転させてゴールデンシャドーとして見出していく、マスタリーにつなげていくことがこれまでのところ一般的となっている。
とはいえ、いくつかのケースでは第二フェーズの途中まで進んだケースがある。それらも活用しながら、第二フェーズにおいてどういうことが起こるのかを記述していこう。
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