コラム:Reapraが考える次世代の産業創造とは

「次世代の産業創造」という私達の目的が、解釈余地が広範で、誤解を生みやすいので改めて内容の定義を試みる。 私達が目指す所の「次世代の産業」とその「創造」、そして「長期持続的」に行うこと、それぞれについて考察していく。 ただし、これらは社会変化と密接に関わるものであり、一度定義づけたとしても、柔軟に変わり得るし、むしろ様々な観点を取り入れて、柔軟に、かつ実践に適うように捉え方を変えていきたい、と考えている。

1. 長期持続的な次世代の産業 ≒ 今はまだないが将来は長期持続的に結実していくと信じられる、人々の生活を良くする経済活動の塊と、それを創出し続けるシステムとしての企業体

“産業”という言葉は広く一般的に使われているが、その意味は多義的である。

まず最も広範かつ一般的な”産業”の定義としては、事業者の集合体、集積した経済活動の範囲を指して、産業と呼ぶものがある。 いち企業や事業単体を”産業主体”とし、それらの集合体を”産業”と呼ぶ。

例えば1次・2次産業は、自然界に働きかけ経済活動を行う主体(農業、林業、漁業)、またはそれを通して得られた材料を加工して経済活動を行う主体(鉱業、建設・製造業)それぞれの集合体として、定義されている。 また、それを自動車産業や鉄鋼産業と呼ぶ場合、「特定の財・サービスを製造・供給するのに必要な過程や事業体、機能」として定義される。 つまり、その財のサプライチェーン全体を指している。 自動車産業であれば、「自動車」という財を軸に、それを製造し、流通させ、顧客に販売し、アフターメンテナンスをするその全過程と、その過程に登場する全ての経済活動・事業体をまとめた概念として”産業”という言葉使うのが一般的である。

では、私たちが創造を目指す「次世代の産業」が何かというと、”人々の生活を良くする経済活動の塊”である。 もう少し詳しく書くならば、人々の生活をより良くする、財・サービス・機能を提供する事業活動(資本回転し、持続的である経済活動)が集まっているもの、である。

Reapraにおける「産業」には必ず「次世代の」という枕詞がつくことに注意してほしい。 一般的に「産業」と呼ぶ場合、あくまでも現在のサプライチェーンなど経済活動・事業体を”静的”に切り出し、分かりやすく定義・整理するために使用されていることが多い。 一方、Reapraが創造を目指している「次世代の産業」では、時間軸を入れて”動的”に変化する社会を、独自の視点から捉えて直しており、まだ存在していないが、今後結実すると信じられる経済活動・事業の集積体を指し示している。

当然であるが、人々の生活のあり様は、時代と共に変わる。 そんな生活に対して、柔軟にその生活を良くしていくものを経済活動として成り立たせ続けることを目指している。 すると、私達が立ち上げた経済活動の周辺にまた新たな経済活動が生まれ、経済市場が大きくなり、それらが塊になった「次世代の産業」が創造されて、社会に与える正のインパクトを増やすことができると考えている。

私たちは特に、「長期持続的な」次世代の産業創造を掲げている。 VUCAに総称されるように、私達を取巻く環境は、ますます変化が早く不確実な時代に突入している。 その中では、人々の生活も徐々に変わっていくし、それも予測が困難である。 その変わりゆくニーズをとらえ続けて、その変化と一緒に変わり続ける経済活動の塊が、私達が創りたい「次世代の産業」である。

e.g.)
✖:人々の生活を変える財・サービス・発明を創り、そのサプライチェーンとしての産業を創る
〇:上記の影響で、変わっていく人々の生活に合わせて、その周辺に発生するニーズに対する次世代の経済活動の塊を創り、かつその人々の生活と一緒に流転する経済活動の塊を創る

一般的な定義の中に、規模の話はない。 しかし、「次世代の産業」という言葉を当てる対象は、事業体の集合体を指していたり、サプライチェーン全体を指しており複数事業社が存在することが自明なものが多いため、一定程度の規模を期待される。 そのため、私達が目指す「次世代の産業」においても、社会に一定程度以上の影響を与え得るという意味で、10年で1,000億円以上の企業価値(翻って資本市場や市政からの期待値が大きい)を超えて成長する企業を創造し、その周辺に生まれるサービスの集積体を指して、次世代の産業と呼称することで、一般的な言葉のイメージに対して差し支えないサイズだと考えている。

2. 「次世代の産業」を創造する / マーケットのリーダーとなる企業を創造する

Reapraは、マーケットの変化や成長を牽引するリーダーとなる企業を創造し、「次世代の産業」と呼べるような人々の生活を良くする経済活動の塊を作りにいきたいと考えている。 当該企業の活動の周辺に、また新しいニーズが生まれ、事業体が生まれ、そしてリーダー企業を中心に産業として育っていく。

その意味では、私達が創造する1つの”企業そのもの”が、次世代の産業のポテンシャルだと捉えても差し支えない。 一般的には1企業ではなく、それらの集合体を捉えて”産業”と呼称するし、規模的にも1企業を”産業”とはなかなか呼ばないであろうが、そのぐらいインパクトのある事業体創出を目指している。

私達が標榜する企業創造のアプローチでは、未来の社会変化を洞察し、そこに創業者が創り上げたい、唯一無二の領域の姿を「PBF」と呼称し、定義している。 その創業者が作り出したい未来、社会のあり様、それが現実のものとなったとしたら、独自の商圏が出来上がるため、それはそれで「次世代の産業」と呼称することもできるのではないだろうか。

特定のサービスの提供と決め打ちせず、PBFの範囲の中で、人々の生活をより良くする複数サービスを立上げ、その集合体として大きくインパクトを出していくプラットフォーム型の企業の創造を目指している。 その周辺でサービスを提供する会社が生まれ、結果的に長期持続的により大きな次世代の産業となっていく。 その意味において、私達が目指していきたいのは、既存の”産業”に対して、IT導入で切り込みトランスフォーメーションさせていくことではない。 起業家独自のPBFに基づいて新しい生活や社会のスタンダードを形成する、まさに”創造する”ことを目指している。

3. 次世代の産業創造と馴染まない領域(経済合理性が低く、まだ市場として成り立っていない)

現在、次世代の産業創造としてアプローチできていない領域の1つに、非営利アプローチが適している領域が挙げられる。 経済合理が成り立たないこの領域では、例えば政府等からの介入による助成金等を受領しないとサービスが持続できず、まだいわゆる市場が形成されていない。

▼非営利アプローチが必要とされる領域(例)

1) 外部不経済への対策
市場取引により生まれた副産物が、当事者以外に悪影響を及ぼす。 いわゆる外部不経済(例:公害の発生 等)への対策。 これは社会的費用として、いわゆる市場での取引原理の外で解決する必要があり、本来的には税金などをベースに行政側が解決するもののため、非営利アプローチにより解決が求められるものである。

2) 市場の失敗の是正
市場の自由競争の結果「市場の失敗」と呼ばれる、特定取引者が不利益を被るような状況を是正する動き(例:独占・寡占の是正 など)市場の失敗により、本来の需要-供給の経済均衡が歪ませられている。 非営利団体の場合は余剰金の分配が不可能なため、必然的にその市場の均衡を社会貢献的な観点から目指そうとする。

3) 「政府の失敗」の是正。また非排除性(特定人をその財の消費から排除できない)による、市場勃興。
→「市場の失敗」と同様に、政府が市場に介入した結果、政策が想定していたような経済効果を満足に起こすことなく、結果的に経済/社会活動を停滞させてしまうようなもの。 (例:環境への配慮基準を企業に課したが、重すぎて対応コストが高かくて結果的に進展しなかったり、軽すぎて実行性を伴わなかったり、といったもの)また、提供財の公共性が高いため、自治体格差と言い切れないものの提供時には、非営利アプローチが適している(例:初期の自動車学校の運営)

4) 多様性の受容、インクルーシブネスの促進
→財を提供する対象層が、限定的だったり個別性の高い特徴を持つため、財の開発コストが見合わない。故に市場原理に任せていては配備が進まない。 しかし、公共性が高いもののため、社会要請は高い。

5) 自律・内発的市民性や社会的連帯性の創出促進
→PTAや自治会の運営、市民活動など

このような、特性・目的意識のもとに社会要請を受ける領域では、まず経済合理性が成り立ち、市場原理が正しく機能し始める状態を目指すことが目的となる。 論理的には、助成を受けないと経済性が成り立たない。 勿論、その意味において、長期視点で市場が未成立の頃から、インサイダーとして振る舞うことも1つの戦略としてはあり得る。 まだReapraとしては、そのようなさらに長期的な視点に立ち、市場未成立の頃から参入していくようなアプローチは研究・実践できていないため、取り入れていきたい領域類型の1つではある。


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