3章から移しました。(10/7Sawa)

3-9:Reapraで採用する基準

3章で記述した主要な自我段階の他に、各段階の間にある移行期がある。実際の自我発達の支援にあたっては、キーガンがモデリングしたステージ3,4,5それぞれの移行期の詳細な理解をしておくことが重要である。こうした事情を背景に、発達段階を測定するキーガンの主体客体インタビューをReapraのメンバーや、投資先CEOのアセスメントを行う中で、各人の発達支援にあたっては、発達段階をより細かく見る必要性が明らかになった。そこで、各段階間の移行期をより正確に測定・支援するため、Reapraではキーガンの弟子であるオットー・ラスキーの発達段階モデルを採用する。
以下では、ラスキーのモデルを用いて、発達段階3.0から5.0に至る各段階の特徴などを述べていく。また、ここでは、成人にはほとんど見られない3.0以下の段階の説明を省略している。
また、Reapraにおいては、発達段階5.0を目指すため、発達段階を向上させることを目指すが、元来、発達段階は良し悪しの価値判断を含むものでないことには注意が必要である。

3-10:諸段階の説明:その特徴と限界、支援について (3.0~5.0)

ここでは、ラスキーのモデルをもとに、発達段階3.0から5.0に至るまでの段階における振る舞いの特徴を、0.2ごとに説明していく。また、X.2からX.8までの移行期は、前後の主要段階との距離によって測られる。(下図参照)
一般的に、X.0の段階は安定している段階で、自分が囚われている価値観に疑念を抱くこともなく、主体的であり続ける。その次のX.2の段階では、X.0であった自分に疑念を抱き、客体化し始める。X.4は、それまでの自分の限界に直面し、強い葛藤や自己喪失を体験する段階であり、ここまでの段階は、葛藤を抱えながらも、前の段階の意識構造に基づいて価値判断を下す。また、X.4での強い葛藤に向き合わずに、前の段階に停滞してしまう場合も多く、次の段階に至るためには葛藤と向き合う必要がある。X.6では、葛藤を抱えながらも、前の段階の意識構造と距離を起き、次の段階への前向きに進むことができている段階で、この段階からは、次の段階の意識構造に沿った意思決定ができるようになる。X.8は、ほとんど次の段階の意識構造を体現しながらも、まだ前の段階に引っ張られる自分というものが残っており、意識的に次の段階であろうとするという特徴がある。X+1.0の段階になればもはやそのステージを常態的に生きられており、その段階の特徴をあえて言語化して説明する必要性がない。
なお、下記はあくまでラスキーによる科学的な調査の結果わかった、各段階の振る舞いの特徴を客観的に記述したものである。

3-10a:発達段階3.0について

発達段階3.0の人は、自分の帰属意識の対象である組織や他者の価値観や規範が内面化され、それが自分と区別できていない。この段階における関心事は、周囲の期待に応えることであり、規範を遵守することである。そのため、組織においては「善き市民」として振る舞う。 従順に、組織が定めたルールに従い、デイリーオペレーションを回す。 この段階は、自分の欲求を客体化し、それに埋もれることがなくなった段階である。しかし、一方でこの段階の限界として、周囲に認められたいという欲求が強く、自分独自の価値観を持つことができない。

3-10b:発達段階3.2について

発達段階3.2の人は、自分のアイデンティティを規定している物理的・内面的他者と、自分自身を区別することができるようになる。また、価値判断が完全に他者に依るのではなく、自分の中の他人と異なる独自の部分を発見し始める。
この段階は、内面化した他者の視点の存在に気づき始め、徐々に自分の独自性というに気づき始めるという点で、前の段階を越えている。しかし、一方でこの段階の限界として、まだ強く他者の影響を受けており、自分の価値観を強く主張できずにいる。

3-10c:発達段階3.4について

発達段階3.4の人は、自分が内面化した他者の視点に、価値観や勘定が強く影響されていることを認知し、それは改善すべきだと考えているが、それができずに葛藤を抱える。その結果として、他者の視点に屈している。
この段階は、自分にある自分の価値観が大きくなり、内面化された他者の視点と葛藤を起こしているという点で、前の段階を越えている。しかし一方で、内面化された価値観を否定しながらも否定しきれず、結局はそれに従うという限界がある。

3-10d:発達段階3.5~4.0

この段階においては、自身が世界を見て解釈する「枠組み」を構築する必要がある。かつてはコミュニティに守られていた自己の認知枠組みから脱同一化することが、このステージで必要とされる。この段階においては、何よりも自分の実践するフィールドで、認知的に独り立ちすることが重要である。内面化された他者の影響を受けずに、自身の認知フィルターで世界を見ること。
創業まもないステージの起業家がこのステージである場合、ビズデブに集中することが一番の発達である。自分が自分の事業領域をどう捉え、どう計画し、何を参入障壁と考え、何を利益の源泉と考えるのか。ファーストプロダクトはなぜその領域にして、セカンドでは何を考えるのか。事業をどう拡張していくか。これら一連の問いに答えられることがすなわち、ステージ4として、自分がどのような価値体系で生きていくかの答えとなる。参考までに、オットーラスキーが定義する発達段階測定表より、3.8の基準を見てみよう。
・他者は自分の意味構築活動の支配者となっていないか?
 :なっていない。他者はほぼ完全に自分の意味構築活動を支配する存在ではない。
・自己の意味構築活動は、自分の価値体系を通した視点を仲介しているか?
 :はい。ようやく仲介するようになっている。
・自己と内面化した視点を区別できているか?
 :はい。ほとんど完全に区別ができている。
・自分自身が自分の視点を生み出す存在であり、自分は自分の視点を認識していると明らかにすることができるか?
 :はい。
・発達段階4の自己としてどのように現実世界を生きていくのかに関する考えを説明することができるか?
 :はい。
・他者は自分の意志決定の支配者となっていないか?
 :なっていない。他者は自分の意志決定の支配者ではない。
・他者の視点、感情、考えなどを自分の意味構築システムの視点から捉えることができるか?また、他者も独自の意味構築システムを持っていると理解することができるか?#
 :はい。
・他者の考えや感情にもはや影響を受けていないか?
 :受けていない。

内面化された他者の影響を受けずに、自分の世界認識で事業を進めていくことが、この段階の課題である。

3-10e:発達段階3.6について

発達段階3.6の人は、上記の葛藤を抱えながらも、自分の価値観を優位に考える事ができる。そして、他者の価値観に反しつつも自分の価値観や意見を表明することができるようになり、時には他者の視点を放棄したり批判したりするようになる。
この段階は、内面化された価値観と自分の価値観の葛藤において、自分の価値観を表明できるようになるという点で、前の段階を越えている。しかし一方で、未だ自分の意味構築活動は、他者の視点を媒介としたものであるという点で限界をもっている。

3-10f:発達段階3.8について

発達段階3.8の人は、内面化した他者の視点から分離し、その影響をほとんど受けず、自分の価値観を表明することができる。また、自己の価値観に拠って生きるということについて語ることができる。

この段階は、自己の価値観に沿って意思決定をすることができるようになるという点で、前の段階を越えている。しかし、一方で、他者の期待に答えようとする退行リスクを持っており、自己の価値観体系も明確ではないという限界を持つ。

3-10g:Column 各段階が得る祝福

各段階は到達当初、世界から祝福される。冗談みたいな表現であるが、筆者にはそう見える。例えば、学生の年で若くしてステージ4、及びそれに準ずる知性を獲得するとする。ほとんどがアンバーにとどまる同年代の中では、敵なしである。学生団体の設立やら何やら、やりたいことはほとんど出来るであろう。このように、各ステージは到達した際には大きな祝福を受ける。
一方、到達したままでしばらく停滞していると、徐々にハレーションを起こしてくる。ステージ4で事業を創造しても、そこからしなやかに発達をしていかないと、組織成員から手痛いしっぺ返しを食らう。頑固者扱いされ、裸の王様扱いされるかもしれない。ステージ4の知性は、ビズデブ期においては大いに助けになった。にも関わらず、会社のフェ−ズが進んでも発達していないならば、その同じステージの知性の暗黒面が顕になっていく。
上のステージでも同じである。ステージ4.2は、かつてからすると異質な考えにも開かれており、包容力は上がっている。ステージ4.4も、自身の価値観に関してダウトをかけており、ステージ4からするとかなりの包容力である。
しかし、ここで止まってはまたそれぞれの知性の暗黒面が襲ってくる。ステージ4.2は一旦は立ち止まるものの、結局は自己主導に戻る。ステージ4.4はどうしていいか分からなくなったあげく、外界に対して様子見に留まる。それでも組織は動き、事業は進む。
まるで世界は、発達を止めることを嫌がっているようだ。動き続ける世界において(昨日と今日は違う)、止まっていることは、自然の摂理に反しているのだろうか。 祝福と裁きを繰り返しながら、世界はあなたの自我の発達を導く。

3-10h:発達段階4.0

 発達段階4.0の人は、自己の価値観体系の形成が完成し、自分や他人をその価値観に沿って律することができる。また、その範囲において他者を尊重することができる。
 この段階は、自分を、他者の影響を受けずに、自分独自の歴史性や価値観体系によって定義することができるようになる段階である。しかし、一方で、自分の価値観に固執してしまい、それを他者に押し付けてしまうなどの限界を持っている。

 このステージの人は、有り体に言ってしまえば、自身が構築した価値観に「うぬぼれている」状態である。ステージ3から4に向かって、当人が対峙していく価値観は、親の言ったことであったり、社会や世間や仲間が言っていることである。それと脱同一化し、自身の価値観を築き上げることが、このステージの発達上の課題となる。

 しかし、一度ステージ4に到達してしばらくその味を味わったならば、次はその「自身で作り上げた価値観」が逆作用する。ステージ4はある意味、自分で作ったメガネに視界が限定されている状態である。それは現実realityをそのまま捉えてはいない。ステージ4の強みは逆に言うと、より高次の人から見ると視野狭窄にも見えるその価値体系の限定性それ自体にある。視野が限定されているからこそ、そこにパワーを集中させるがこそ、その価値体系の中においては実績が出せるのである。

3-10i:発達段階4.0-4.5

この段階においては、自分の自我の働きに気がつくことが発達である。まずは、気がつくだけで良い。自我に対してのメタ認知が必要とされる。グロイターの図においても、stage4.5は「4人称視点」を有しているという整理になっている。4人称視点とはすなわち、自らの認知システムの外側に視点を有するということである。つまり、「自分はこう考えるが、これは自分の認知バイアスの影響を受けている」という前提でのものの見方・考え方ができるということである。
この段階特有の苦しみというのがある。それはすなわち、自分が築き上げた「理想像」ないし「なりたい自分」と、現状の自分とのギャップである。達成欲求や強い自己成長欲求は、ステージ4の知性に色濃く伺える人生へのスタンスである。

3-10j:発達段階4.2について

 発達段階4.2の人は、自分の形成した価値観を疑い始めることができるようになり、他者は別の意味構築システムをもっているという気付きや、自己理解のためには他者が必要であると行った気づきを得る。
 この段階は、同一化していた自己の価値観を相対的にみなすことができるようになるという点で、前の段階を越えている。しかし、その一方で、限界を感じつつも自分の価値観を擁護してしまうという限界がある。

3-10k:発達段階4.4について

 発達段階4.4の人の主要な特徴は、自分の価値体系と他者の価値体系との間に葛藤を抱え、自分の価値観を放棄ないし変更せざるを得ないような強い自己喪失を経験するというものである。あた、その過程において、他者からの意見や助言を参考にし始める。
 この段階は、自分の価値体系の限界を強く認識しているという点で、前の段階を越えている。しかし、一方で、自分の価値観を客体として認識することが完全にはできず、自己変容を自己形成より優位に置くことができないという点で限界がある。

3-10l:発達段階4.5前後の注意点

 4.5の状態のことを天外伺朗は、「真綿の鎧を着ているよう」と表現している。すなわち、シャドーを振り回す生からは解放されているものの、決してシャドーを統合しているわけでもない。シャドーを振り回してはいないが、未だシャドーの影響下にある。そのことを持って、天外は「真綿」と表現した。柔らかいが、未だに自分が生身・素では出ておらず、包まれている。
 この段階に固着するケースもある。この段階ではシャドーを抑圧することにいまだ力を使うため、シャドーを統合した末に発揮できる自身の潜在能力からは未だ見放されている。シャドーが発露しないように「逃がす」技法が習熟しているケースもある(瞑想やアンガーマネジメント、iNLPなど)。
 4.5はかように越えるのが大変なステージである。X.4で見られる深い自己喪失がこのステージでも色濃く見られる。アメリカでの管理職クラスを対象にしたキーガンのデータにおいても、4.5が全体の6%いるのに対して、5.0に到達する人は1%未満だとされており、ここに一つの難所があることが分かる。REAPRAではこのステージの人が適切にシャドーワークを行えるように伴走し、ステージ5自己変容型にしなやかに向かえるように支援していく。
(参考文献:天外伺朗『実存的変容』)

3-10m:発達段階4.6について

発達段階4.6の人は、上記の葛藤を抱えつつも、徐々に自己変容の過程に身を置くことができるようになる段階であり、自分の価値観を客体化して脇においたうえで、他者を理解する事ができる。
この段階は、自己の価値観を客体化し、他者を受け入れることができるという点で前の段階を越えている。しかし、一方で客体化した自分の価値観と分離することが不完全であるという点で限界がある。

3-10n:発達段階4.8について

発達段階4.8の人は、自分のいかなる部分とも同一化せず、時には自己喪失を経験するような場面においても、他者の変化・変容を支援する役割を担う。また、言語表現そのものに限界を感じ始めている。
この段階は、自己を何にも同一化せず、変容に対して開放的であり、他者の変容をも促すことができるという点で前の段階を越えている。しかし、一方で未だ退行してしまうリスクをもつという点で限界がある。

3-10o:発達段階5.0について

発達段階5.0の人は、過去の成功や失敗、自分の歴史などを超越し、自分の特定の側面と同一化することなく、絶え間ない変容のプロセスを妨げるものから解放されているという特徴を持つ。また、彼らは自分が考えることは全て、世界の限られた側面しか映し出すことができないということを深いレベルで認知しており、それ故に絶え間ない学習のプロセスに強く関与している。まら、そうした自分の変容に際して、他者との関わりは欠かすことができないと認知しており、他者の多様な価値観を受け容れて動機づけることや、相互に価値観を交換するなかで相互発達を促すことができる。
この段階は、もはや言葉として発達段階5を語るまでもなく、その特徴が体現されているという点で、前の段階を越えている。

3-11:自我次元の測定

3-11a:なぜ測定する必要があるのか

なぜわざわざアセスメントを受けるのだろうか。それは、現在の自己のあり方を理論的に整理されること、そのものを知ることが、自我の発達を促すからである。再三繰り返すが、自我の発達はメタ認知によって起こる。かつての自己の中心をメタ認知することが発達である。言い換えると、囚われからの脱却が発達である。幼少期に、自己の身体的欲求(寝る、食べる、泣く、排出する)と一体化していたが、母親の躾けや保育園幼稚園小学校などのいわゆる「社会的機構」に投げ込まれることによって、子どもは自己の身体的欲求をコントロールすることを覚える。泣いてはいけない場面、トイレに行ってはいけない場面、食べてはいけない場面を覚える。これは、自己の身体的欲求からのとらわれから脱却し、一段上の次元でメタ認知しコントロールするようになったという意味で、自我の発達である。
同様のことが、成人して更に上の次元に行くと、メタ認知を促される契機が減る。これが、成人以降の発達を難しくさせる原因となっている。しかし成人発達理論が明らかにしてきたように、成人以降も自我の発達は続く。現在いるステージより高次のあり方beingがあるのである。そのことの告げ知せを聞くだけでも、自己のメタ認知には資するため、やはりあなたは自己の次元を知った方が良い。

3-11b:SOIの流れと質問者(インタビュアー)の役割

インタビュー前、質問者はインタビュイーが本音を話しやすいよう、ラポール(信頼関係)を形成することに努める。そして、インタビュー中、質問者は情報収集的な質問を投げかけ、それに対するインタビュイーの発話を傾聴し、インタビュイーの意識の構造を理解することに努める。そして、相手の発達段階に関する仮説を構築し、その仮説を検証するということを繰り返す。インタビューは、インタビュイーの現在のロールにおける「成長」と「課題」について話してもらう。質問者が、インタビュイーの発達段階の下限と上限の仮説検証を十分に終えたと判断し、インタビュイーの発達段階を通じて世界を見る(感じる)ことができた時、インタビューを終了する。

主体客体インタビューでは、インタビュイーの成長と課題について語ってもらう。最初に、インタビュイーに「成長」と「課題」について列挙してもらい、インタビュアーがそのうち1つか2つ程度に焦点を当てて聞いていくのが良い。この時、3つの注意点がある。
まず、インタビュイーに考えてもらう「成長」と「課題」の時間軸について。成長とは、過去にはできなかったことを、何かの出来事や学びを経てできるようになったというものであり、必ず過去と現在の比較を伴う。成長について語ってもらう過去が遠すぎると(中学時代など)、その意識構造を十分に分析できない。そのため、成長について語ってもらう場合は、「前の職業と比較して」や、「Reapraで働く中で」あるいは「起業してから」などといった条件付を行うのが適切である。時間でいうと、最近2~3年について聞けると良い。
次の注意点が、インタビュイーに列挙してもらった「成長」や「課題」の中から、質問者が、話題を選ぶ際の注意点である。インタビューの目的は、インタビュイーの発達段階の測定であり、質問者の興味は脇に置かなければならない。必ず、相手の発達段階が測定しやすそうな話題を選択することが大切だ。例えば、ステージ3から4の間にいる人は、「成功」や「転職」、「評価」など、周囲の価値観との距離が浮き彫りになりそうな話題を選択すると良い。一方、ステージ4より上の人の場合には、「他者との関係」「自己喪失経験」「組織の中での振る舞い」など、自分と他者の価値観への認識が表れやすい話題を選ぶと良い。
最後の注意点が、「話題を転々と変更しないこと」である。相手の意識構造を測定する上で、ある話題に関する相手の認識の限界を測定できないまま、次々と話題を変更してしまっては、十分な情報が集まらない。一つの話題について深く、多面的に探求するというのは難しいため、この注意点はよくよく念頭におく必要がある。

3-11c:情報収集的質問

情報収集構造的質問とは、インタビュイーから、様々な情報を得るための質問である。仮説が構築できていない時、あるいは仮説を検証するための切り口を探す時などに使う。探究的質問とは異なり、「どのような考えをもっているか」「どのような経験をしてきたか」などについて聞くことが多い。

「成長」
その成長をした後、どのような変化がありましたか? その成長は、いつ頃、どんなきっかけで起きましたか?
その成長について、詳しく/具体的に教えて下さい。
『課題」
その課題は、どのような背景から発生していますか?
その課題は、どのような点で、重要だと感じていますか? それを課題だと思ったのは、なにがきっかけですか?

3-11d:仮説の構築

質問者は、空手でインタビューとアセスメントに臨んではならない。まず、各次元の特徴の概要の理解が必要である。
そしてそれぞれの対象者にインタビューを開始する前に、願わくば対象者のキャリアを把握しておくことが望ましい。すでにこれまで見てきたように、職務や職能は、自我の次元の現れだからである。外面の行動は全て自我から出てきている。やっていること・行なっていることを見れば、当人の自我はおのずから明らかである。
また、聞き取りに当たっては、当人の中で大きかった出来事を、時系列で持って把握していくことが望ましい。キャリアと出来事の組み合わせで、大枠の自我段階の仮説を生成することができる(むろん、0.2刻みでの精密な測定のためには、聞き取りを敢行しないと分からないことも付け加えておく)

さて、こうしてインタビューに臨み、一連の情報収集的質問や探究的質問をし、ある程度の情報が集まったら、質問者はインタビュイーの発達範囲に関する仮説を立てる必要がある。このときに、発話の内容ではなく、発話構造に着目するよう注意しなければいけない。相手の発達段階の下限や上限の仮説を構築した後、次にはその仮説を検証するための探究的質問をおこなう。例えば、インタビュイーの発達段階の仮説が4.0だった場合、3.8のような他者依存的要素は見られないか、あるいは4.2のような自己の価値観の相対化が見られないかなどを探究していく。

3-11e:構造とコンテンツ

構造とコンテンツを切り離すということが、SOIインタビュワーとしてまず必要な資質となる。つまり、コンテンツは自我の構造を直接表すものではないということだ。コンテンツを構造と取り違えると、「私は宇宙と一体になっています!」という発話をすればすなわち、その人はステージ6になるということである。これは危険な見方であり、SOIインタビュワーは発話をそのまま受け取らないように訓練する必要がある。
しかし一方で、構造とコンテンツはある程度の親和性を持つ。構造とコンテンツは、違うものだが、同じものでもあるとも言える。コンテンツと構造は紐付いている側面がある。語られている内容と、構造は、実は対応関係がある。例えば、3歳の子がブッダの思想を語りだすことはない。しかし、学んで、唱えることはある。ある程度の相関性を意識しながらも混同しない形で、分析探究をしていく必要がある

3-11f:探究的質問とは

探究的質問とは、インタビュイーの語りの中から、当人の意味構築構造を聞き出せそうな話題に対して、より深く聞く際に用いられる質問である。探究的質問への発話から、インタビュイーの発話構造を分析し、質問者は仮説を検証・再構築していく。探究的質問は、主に「他者の捉え方」「自己認識について」「支配欲求について」「コミュニケーションについて」などを話題の焦点としつつ、様々な角度からインタビュイーの感情や認識について聞くことになる。そしてそのインタビュイーの感情や認識が、他者から来たものなのか、自己から来たものなのか、あるいはその認知への限界があるのかなど、自他の境界線を探索する。


「やりたいことがどんどん増えてきて自分のボトルネックにはまっているのが、自分の段階だということに気がつけました。それで人を雇っている、自分のやってることを渡さなきゃいけないんだけども、それを心から全然やりたいと思えないというところがあって、そこの葛藤にすごく悩んでいましたと。要は自分がプレイヤーとしてやっていた方が楽しいっていう要素があったのかなというふうに思うんですね。」

発話構造の分析
「自分のやりたいことをやりたい」という在り方と、要求されているマネージャーという立場との葛藤が見られる。自分の価値観の相対化が進み、葛藤しつつあるということで、発達段階4.2~4という仮説が構築される。まずは、その価値観が自分独自の価値観と言えるかどうかという下限(4.0)の探求と、この葛藤において、自己喪失的な認識があり、変容に向かっているかという上限(4.4)の探求をする。

想定される質問例   下限探求

  • 自分がプレイヤーをやっていた方が楽しいというのについて、詳しく教えて下さい。いつ気づいたとか、いつからそうだったなど。
  • プレイヤーの、どういう側面に楽しさを感じていますか?
    上限探求
  • プレイヤーとしてやれないと、どのようなことに葛藤を覚えるか、詳しく教えて下さい。
  • その自分のボトルネックっていう認識は、どういうものですか?
  • どのようなことがきっかけで、プレイヤーとして楽しんでいてはいけないと思うようになりましたか。

インタビューの注意点・倫理
最後に、インタビュアーが、インタビューを実施するにあたって、気をつけなければいけないことについて述べる。

  • インタビュイーの思考の流れを妨げてはいけない。質問者は、決してコメントや解釈、アドバイスなどをすることを避けなかればいければいけない。
  • また、「なぜ」という質問はできるだけ避けなければならない。「なぜ」は、相手に対して少し問い詰められているかのような印象を与えてしまううえ、それに対してインタビュアーが納得するように、インタビュイーはそれっぽい応答してしまう恐れもある。なぜという言葉を使いながらも、発話者の発現の背景を尋ねていく。
  • インタビュアーは、自分の関心のある話題は脇に置き、インタビュイーの関心や思考の流れに沿って、その発話を容器のように受容すること。
  • インタビュイーの立場になって考えること・感じることを躊躇してはならない。
  • インタビュイーの思考の整理を手伝うため、インタビュアーは定期的に、インタビュイーの用いた言葉に則って、要約や言い換えをする。
  • 特に、インタビュイーが話しにくい(困難や弱みなど)ことについて話している際には、インタビュイーの様子に細心の注意を払うこと。インタビュイーが、語ることに疲れていないかなどを、20分に一度程度確認すること。

ケーススタディー/問題集など載せるか? ⇢永見さんが過去作ってくれたもの。


メールでのフィードバックは book-feedback@reapra.sg まで。

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